1月11日
今日から、川崎のセットで撮影。学生運動の拠点となった自治会室などが作り込まれた「川崎5スタジオ」は、広大なJFE(旧日本鋼管)の工場の端にある、かつて日本鋼管の組合事務所などが入っていた4階建てのビルだ。『夢見るように眠りたい』の林海象監督が、インターネットシネマ『探偵事務所5』撮影のために長期間借りている。足立正生監督の『幽閉者』もここで撮影された。
今日の撮影シーンは、おもに連合赤軍幹部の森恒夫、永田洋子、坂口弘らが登場する場面。
1970年12月31日に、赤軍派の森、板東国男と、革命左派(京浜安保共闘)の永田、坂口、寺岡恒一は、埼玉県の旅館で初めて顔を会わせた。それからちょうど一年後の'71年の大晦日には、連合赤軍を結成した彼らは、榛名の山岳ベースで総括による最初の犠牲者を出す。寺岡も殺された。約一ヶ月後、粛清が続く山岳ベースから森とともに一時下山した永田は、恋人の坂口を捨て、森と一緒になる道を選ぶ。永田とともに逮捕された森は、さらに一年後の'73年元旦、東京拘置所で自ら命を絶つ。坂口は「あさま」山荘の銃撃戦で逮捕され、死刑を宣告される。永田にも死刑判決が下ったが、板東は日本赤軍に奪還されアラブに渡る……。
連合赤軍は歴史の一つの事実だが、1971年~'72年、連合赤軍という事実を通して時代と向き合った者たちには、一人の人間としての様々な生と死のドラマがあった。この映画は、そのドラマを描いてゆく。
板東国男(大西信満)
永田洋子(並木愛枝)
森恒夫(地曳豪)
1月7日
年末年始の休みを終えて、撮影再開。
今日の撮影シーンは、赤軍派議長塩見孝也が、逮捕されるシーン。
塩見は、じつは赤軍派による日航機ハイジャック('70年3月)の実行予定日の10日ほど前に逮捕される。しかし、警察は、彼らに「よど」号を乗っ取って北朝鮮に向かう計画があるとは、まったく気がつかなかった。虚を突かれた警察は、面目を失い、その後赤軍派のメンバーに対して、「赤軍罪」とも呼ばれた人権無視の逮捕を繰り広げてゆく。
塩見を追い詰めたのは、彼自身の著書によれば、警官とともに、たまたま通りかかった小・中学生たちだった、という。その状況を再現すべく、子供たちのエキストラも登場。撮影は順調に進み、アップ後、スタッフは11日から川崎のセットで行われる撮影の準備に取りかかった。
午前中、国民宿舎の近くの沢で、今回の撮影を終える。
シーンの設定は、妙義山籠沢の洞窟だ。そこは妙義ベースと呼ばれたが、まがりなりにも屋根と壁があったそれまでのベースとは異なり、天然の洞窟を人が座れるように掘り下げただけの場所だった。迦葉ベースから、榛名山を挟んでちょうど反対側にあたるこの妙義ベースに移動したメンバーは、下山していたリーダーの森と永田の帰還をここで待った。
だが、留守部隊のリーダー坂口たちが新たなベース建設地の調査に車で出かけようとしたとき、近くの林道で私服刑事の職務質問を受ける。彼らは運転手の奥沢と同乗していた杉崎を車に残して洞窟へ駆け戻り、杉崎たちがいわば囮として車に籠城して時間稼ぎをする間に、妙義山の山越えに出発する。
じつは、そのとき東京から戻った森と永田も籠沢の近くに来ていた。しかし、森と永田も洞窟に着いたのは、ほんの数時間の差で坂口たち留守部隊が出発した後だった。そして、連合赤軍のリーダー森と永田はこの洞窟で逮捕される。このとき、森と永田が坂口たちと合流できていれば、その後の「あさま山荘」銃撃戦とは異なった展開になっただろう……。
第一回鬼首ロケの最終日には、厳冬期の山越えが始まり、「あさま山荘」への最終行程が始まるこの籠沢の洞窟こそ、ふさわしかった。
ロケ隊は、来年の1月下旬、鬼首の雪のなか戻る予定だ。
撮影は12月15日前後から一ヶ月あまり、東京都内と近郊に場所を移す。この撮影では、赤軍派が誕生し、革命左派(京浜安保共闘)と連合赤軍を結成するまでが描かれる。
実話も撮影も、この籠沢の洞窟がまさに分岐点だ。
午後1時過ぎ、スタッフは機材車などに分乗し、出演者たちは列車で、一斉に鬼首から引き上げた。
11月26日
鬼首ロケは、予定よりも一週間も早く終了することになった。予定していたシーンをほぼ撮り終えたためだ。
今日は、鬼首の中心地から10数キロ離れた鎌内地区に造られた迦葉ベースのセットで撮影。セットは一度強風のために壊れ、立て直された。この迦葉ベースから連合赤軍の崩壊が始まる。
今朝は寒かった。撮影開始は、午前9時頃。しかし、始まった撮影撮影は、「早撮りの若松」の名をしても信じがたいほどの猛スピードだった。ナイト・シーンをデイ・シーンに変えたりして、とにかく次々に撮影をこなしてゆく。あっという間にデイ・シーンを撮り終えた若松監督が発した言葉は、なんと「今回のロケは、今日中に終えるゾ」だった!!
じつは、この迦葉ベースでは3日間の撮影スケジュールが組まれていたのだから、スタッフだけではなく出演者も、呆然……。そして、再び怒濤の撮影が始まった。
森と永田が迦葉ベースから一時下山している間に、脱走者や部隊から脱落する者が出て、連合赤軍は思いかけない早さで崩壊に向かう。そして、最後に残った5人が「あさま山荘」に立て籠もる。その崩壊の過程をわずか1日で撮ってしまうのは、物語を膨らますカットやエピソードを省き、ストーリーを根幹となる必要最小限の要素で描こう、という意図があるからだ。
撮影が夜になってから、総括を要求され死を予感する山本順一と妻保子の別れのシーンもあった。保子を演じた比佐廉は、そのシーンを終えてからもしばらく泣きやまなかった。
監督は、映画には「流れ」がある、という。つまりテンポやリズムのことだ。榛名ベースでの粛清から「あさま山荘」に至るその流れを止めたくないの で、あえて迦葉ベースのシーンは極限までそぎ落とされることになった。こうして、この映画の鬼首ロケは、誰もが呆気にとられるうちに終了に向かった。
……ということで、明日(27日)、スタッフ出演者、全員が鬼首を離れる。
11月25日
約一週間続いた榛名ベースでの撮影も、今日が最終日。赤軍派の持原好子の逮捕と、革命左派(京浜安保共闘)の岩田の脱走で、榛名ベースを捨てざるを得なくなった連合赤軍は、約40キロ離れた迦葉山へ新たにベースの建設を始める。建設部隊が出払ったため、人数が減ってガランとした榛名ベースでは、総括を求められている革命左派の大槻節子と金子みちよが、柱に縛りけられている……。それが、今日の撮影の、トップシーンだった。
今日の鬼首は、朝は冷え込んだが、日が昇ってからは一日中風もなく快晴。インディアン・サマーだ。撮影は快調。午前10時30分頃にはトップシーンを撮り終え、小屋の実際の解体に取りかかる。その解体作業を出演者たちが行うのも、映画のなかのワン・シーンだ。
その後は、エキストラと呼ばれる使用未定のカットを撮影。
日が暮れる午後4時頃から、取り壊した榛名ベースの廃材を燃やすシーンを撮影……、の予定だった。ところが、若松監督は、たまってゆく廃材を見ると、まだ陽も高い午後2時頃、誰にも相談せずに着火。これには、現場にいたスタッフ一同、ビックリ。しかし、文字通り山のような廃材は、そのあと日没後まで数時間燃え続け、榛名ベースは姿を消した。
この炎が目撃され、連合赤軍の包囲につながってゆく。
榛名ベースのセットがなくなって、山林に戻った現場にはまさに「夢の跡」を思わせる。連合赤軍は、果たして悪夢だったのか? 過酷な状況のなかで自滅していった彼らが目指したのは、いったい何だったのか? それが、この映画の撮影現場を見ていると、徐々に明らかになりつつある。
撮影終了後、撮影部とのミーティング兼夕食を終えた監督が、出演者やスタッフが泊まっている国民宿舎にやってきた。突然の監督の訪問に、みんな集まってきた。そう広くはないロビーで自然に井戸端談義が始まった。
明日は、鬼首の最深部ともいえる鎌内に建てられた迦葉(かしょう)ベースで撮影。連合赤軍の崩壊が始まる。
11月24日
今日の撮影開始は、午前8時半。
最大数28人を数えた出演者も昨日あたりから徐々に現場を離れ始め、小屋の中から徐々に人が減ってゆく。 粛清や逃亡により人数が減っていった実際の榛名ベースも、こんな様子だったのだろうと思わせる。
今日のアガリ(撮影終了)は、午後3時過ぎ。比較的余裕があった。
連合赤軍の榛名・迦葉(かしょう)・妙義の各ベースで殺されたのは、合計12名。ほとんどの者が総括を名目に殺されたが、なかに2名だけ死刑を宣告された者がいる。革命左派(京浜安保共闘)の寺岡恒一、赤軍派の山崎順だった。だが、彼らが他のメンバーのように総括を要求されたのではなく、なぜ死刑だったのか、その理由はわからない。その二人の死刑が今日のおもな撮影シーンだった。
映画の撮影現場を支配しているのは、「時間」だ。もし、無限に時間があるのなら、この映画は成立しないだろう。どんどん進む若松監督の「時間」に、出演者たちも戸惑い気味だ。しかし、出演者たちの顔つきが変わりつつある。流れゆく歴史のなかで、「いま」をつなぎ止めるのがこの作品だ。その「いま」が、30年前のいまであったように……。
トラブル、アクシデント、インシデントその他が起きるのは当たり前だが、それ故に、現場ではこの作品作りへの一種の連帯感が生まれつつある。今日で出番を終えた出演者がセットを出て、現場を離れるとき、どこからともなく拍手が起きた。
11月22日
11月23日
22日、助監督の井上亮太の体調が崩れ、現場離脱。山を下り、病院へ。さいわい(?)午前中は「サツキュウ」だった。現場には衝撃が走る。だが、撮影は続行。
撮影の密度は、どんどん濃くなってゆく。監督が何を創ろうとしているのか、だんだん観えてくる。若松監督が、出演者に求めているのは、自分だ。キミ、オマエ、アナタが、そこにいたらどうするか……? 監督は問い続ける。
23日。この作品のクライマックス・シーンの撮影。坂井真紀が演ずる遠山美枝子に、ほかの出演者は涙ソウソウ……。濃密な時間、或いは時間の凝縮が映画だ。
この二日間、夜は山荘に女優さんたちを招いて夕食。ここにも凝縮された時間がある。
22日夜。右から宮原真琴(小嶋和子)、藤井由紀(大槻節子)、安部魔凜碧(金子みちよ)
23日夜。右から坂井真紀(遠山美枝子)、奥田恵利華(杉崎ミサ子)、比佐廉(山本保子)、神津千恵(中村愛子)
