6月15日。
雨の予報が、薄日のさす夕暮れだった。
夜もとっぷり暮れてから、にわかにごった返すテアトル新宿。
「日本映画プロフェッショナル大賞」授賞式が行われるのだ。
今回の授賞式には、万感の思い。
若松孝二悲願の「11.25自決の日」での井浦さん主演男優賞。
アジア国際映画祭でも受賞してくださったが
ここ、若松孝二の近作始動の場であったテアトル新宿にて
しかも、若松孝二にも監督賞が贈られるとあって
また、思いもひとしおである。
主催の大高宏雄さんが、受賞者一人一人を壇上へ呼び上げる。
主演女優賞の前田敦子さんに続き、
「主演男優賞、『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』『かぞくのくに』
井浦新さん!」
首に若松監督の遺品のマフラーを巻いた井浦さんが壇上にあがる。
「若松監督からは、三島由紀夫という人物をなぞるのではなく
お前という人間が、そこに存在してくれていればいい、と言っていただいた」
と、三島由紀夫を演じるにあたっての監督の言葉を語った。
サプライズで花束贈呈に現れたのは
『実録・連合赤軍』以来の若松組の同志、大西信満さん。
「新に主演男優賞を取らせたいなあ」が、クランクアップ後の
若松監督の口癖だった。
監督の予想を超える熱量を見せてくれた井浦さんに
仁義を果たしたい、というような口ぶりだった。
そして引き続き、監督賞の発表。
「若松孝二監督。代理で井浦さんに受賞していただきます」
首に巻いていたマフラーを外し、
マフラーを持った両手で賞状と盾を受け取る井浦さん。
花束贈呈は「実録・連合赤軍」以降、若松作品の
初日公開をともに走ってきたテアトルの沢村敏さん。
若松孝二と井浦新。
二人が並んで受賞していたら、監督が浮かべるであろう満足そうな笑みが
たやすくまぶたの裏側に浮かんできた。
ブルーのダンガリーシャツを着て、ベストをはおって
帽子をちょっと上げて挨拶する監督の仕草まで見えてきた。
井浦さんは、映画業界を取り巻く激動の状況
特にデジタル化への急激な意向、地方ミニシアターの苦境などに触れ
「若松監督は、どんな地方の劇場への
自分の足で作品を届け、自分の口で作品について語る事を
決して怠らなかった」と語った。
「いつのまにか、メジャーの作品であればあるほど
舞台挨拶は東京・関西・福岡のみ。
そういう状況に当たり前の事として甘んじていたのでは。
今、なすべき事は、何か革新的な事を打ち上げるのではなく
原点に立ち返る事ではないか」と、静かに言葉を続けた。
「若松監督は、独立プロの最後の砦のような存在だった。
自分で作品をつくり、自分で劇場に届ける。
その事を、変わらずずっとやり続けてきた人だった。
監督がいなくなってしまった今、自分たちは、映画の火を
絶やしてはならない。作り手も配給も、真剣に
考えていかねばならない」と語る一方で、客席に向けては
「これは、作り手の裏側の事情の話でしたが、お客様へ向けて、
まだ、若松作品をご覧になっていない方がいらっしゃったら
ぜひ、これから、若松作品と新たに出会って頂ければ嬉しいです」と
井浦さんらしい配慮と思いを覗かせた。
井浦さん、大西さんは、今月に入ってから
シネマ尾道や、富山のフォルツァ総曲輪へと足を運び
「若松孝二特集上映」に登壇して来た。
各地から、そのときのトークの模様、若松孝二からの学びを継承する事は
特殊な事をする事ではなく、日常を積み重ねていく事だという
そうした二人の言葉を漏れ聞いていたのだが
久しぶりに見た二人の顔は、いつもと変わらず穏やかだった。
『さよなら渓谷』の初日を翌週末(6月22日)に控えて
多忙をきわめていた大西信満さん、
『日曜美術館』キャスター、テレビドラマ出演、写真展など
表現の幅が飛躍的に広がり同じく多忙の井浦新さん
ありがとうございました。
そして、若松孝二の監督賞受賞、井浦新さんの主演男優賞受賞
おめでとうございます。
今秋、再び『千年の愉楽』が都内劇場にて1週間上映予定。
今秋といえば、若松孝二の一周忌がやってくるのである。
あっという間だったともいえるけれど、
若松孝二不在となってからの
果てしなく長かった道のりを思う。
それぞれの歩みは続いて行くのである。
今週末には、いよいよ、若松監督もこよなく愛した
沖縄「桜坂劇場」にて、『千年の愉楽』がスタート。
舞台挨拶に、高岡蒼佑さん、井浦新さんが駆けつけます!
http://www.sakura-zaka.com/movie/1306/130622_sennenno.html
また、同じタイミングで同劇場にて
若松孝二追悼上映が行われます。
若松監督が好きだった「旅芸人の記録」と監督旧作を
2週間にわたって上映。
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