2012年6月5日火曜日

三島由紀夫を描くということ…立川シネマシティにて

公開2日目は大阪と京都にて舞台挨拶を行った監督と井浦新、
3日目となる昨日は、
立川シネマシティにて2度の舞台挨拶を行う。
関西では、どの劇場も立ち見がでる程の大入り満員。
熱い政治議論が交わされる一幕もあったという。
恐らく、疲労困憊しているであろう二人だが、
各劇場で、多くのお客さんたちとの濃密な時間を共有できたという
その満足感の方が大きく、表情に疲れは見えない。
さて、昨日のシネマシティでは、上映後の舞台挨拶で
活発な議論が交わされた。
「三島由紀夫は右翼なのだろうか?」
「今、生きていたら、原発事故を起こした日本において
 どのような行動を起こしていたか?」
「戦争というものを挟んで、天皇バンザイという国から
 民主主義バンザイという国に、180度切り替わった日本について」
様々な疑問が客席から寄せられ、監督と井浦が、それぞれの思いを語った。
「連合赤軍を撮ったときに感じた、右翼も左翼も同じだという直感。
 その上で、身体を張った生き方に、当時の自分は
 『三島さんは、一体何をやってんだ!?』という驚愕だけだったが
 今になってみると、その生き様に、強く惹かれるものを感じた」
「特に、へりくつ云々じゃなくて、若い奴らにここまで言って
 今更、やーめた、なんて言える人じゃなかった。
 言ってみれば、「義」の人なんだと思うんですよ。
 それで、僕もどっちかというと、理屈より「義」っていう人間なんです」
「生きていたら、間違いなく、東電に突っ込んだはず。
 僕だって、もっと若ければ、突っ込みたいくらいだ。
 大体、補助金なんて、シャブみたいなものだよ。
 地元の人たちを補助金という名のシャブ漬けにしてきたのが
 原発政策でしょ。
 今、あんないい加減なでたらめで、再稼働なんていうことに対して
 もっとみんな、怒るべきだよ。
 僕は、そうした怒りがエネルギーになって、次の作品へと駆り立てる」
「戦前の天皇バンザイは、僕自身の体験となって刷り込まれている。
 一日中、どこにいても何をしていても、天皇の写真に頭を下げさせられた。
 そして、天皇のためにと、1銭5厘の召集令状で若者が集められ
 僕たちは日の丸を振って彼らを戦地に送り込んだんだ。
 僕は右翼でも左翼でもない。
 いいものはいいけど、ダメなものはダメなんだ。
 それを伝えていきたいから、映画を撮るんです」
と、持論を展開した若松監督。
また、井浦も、1つ1つの質問を真っ直ぐに受け止め
じっくりと考えながら、言葉を紡いだ。
「僕は、「実録・連合赤軍」で坂口さんを演じ、
 若松監督の盟友、足立監督の作品で、オリオンの三つ星となった一人を演じ
 今回、三島由紀夫さんを演じました。
 実在した方たちを演じること、それはその志を感じることだと思います。
 共通していたのは、何かを変えようとしていた事。
 そして、自己犠牲の気持。それは、日本人らしさとも言えると感じてます」
 


いずれにしても、実在の、極めて様々な伝説を持つカリスマを描くことの
難しさと、それに敢えて挑んだ若松孝二の直感の鋭さを思う。
先日、フランスの「ルモンド」紙が、カンヌで上映された本作について
「失敗したクーデター、失敗した映画」という見出しで
記事を書いていた。
http://www.lemonde.fr/cgi-bin/ACHATS/acheter.cgi?offre=ARCHIVES&type_item=ART_ARCH_30J&objet_id=1193851&xtmc=wakamatsu&xtcr=1
三島由紀夫なる偉大な人物を映像として表現することに
巨匠のワカマツが挑んだが、三島という人物の極めて複雑な部分までは
踏み込めなかった、という辛口の記事だという。
しかし、そうした指摘の随所から感じるのは
「巨匠・ワカマツ」が描く人間像や時代像に対する
ヨーロッパにおける期待度の高さ、要求度の高さである。
そして、この作品への注目度の高さであり、
並外れた期待度の高さである。
カンヌでの一般上映の際、巨大ホールが満員になった事からも理解できる。
そして、上映後のスタンディングオベーションにも、
メジャーの後押しも何もなく、たった一人でこのテーマと格闘し
作品を作り上げたワカマツへの惜しみない賞賛の眼差しがあった。
極めて複雑に理解されてきた
知の巨人とも言える三島由紀夫なる人物を1つの映画として
表現するということが、いかに大きな挑戦だったのか、ということだ。
さらに、評論家やインテリの専門家たちが
複雑に分析してきた事象について、
若松孝二という、極めて感覚的で直観的な芸術家が
どのようにえぐり取り、取捨選択していったのか、ということだ。
<三島と時代>のカオスの中に、若松孝二はぐいっと手を突っ込み
己の視点で、一つの核を探り出し、純化したのである。

 監督は、舞台挨拶や記者会見の場でも何度か口にしていた。
「僕は、自分のカネで、自分の好きなように
 撮りたいものを撮っているので、
 褒められようと、けなされようと、全く関係ないんです」
50年に及ぶ監督人生の中、貫いてきた信念である。
いずれにしても、
その真っ向勝負を見届けようと、劇場に集まってくださり
手を堅く握りしめてスクリーンを見つめてくださる
観客の皆さんだけが、それぞれの答えを見つけるはずである。

今週末は、若松監督、井浦新とともに、森田必勝役の満島真之介も沖縄にて舞台挨拶。
その後、続けて、佐賀、福岡へ回る。

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