6月1日夜。テアトル新宿。
阿部薫の乾いたサックスの音が響き、
「十三人連続暴行魔」の貴重な35ミリプリント上映が始まった。
オーバーオールを着た冴えない小太りの男が
自転車に重たげな身体を乗せて
河川敷や工業地帯の間を走り回る。
向こうには、発着を繰り返す飛行機。
成田空港開港の新聞記事。
1978年という時代の匂いをまき散らしつつ
しかし、映画は終始、男のお尻と犯される女の裸体
打ち込まれる拳銃の音が、ひたすらひたすら繰り返されるのである。
途中で、「17歳の風景」(2005年公開)だ!とはっとするようなモチーフや
映像の切り取り方が現れるのだけれども
とにかく、ひたすらひたすら繰り返される暴行。
阿部薫のサックスの渇望が画面から溢れ出す瞬間や
記号のように繰り返される行為そのものの感じ
なぜか長期間いたぶられるのは婦人警官。
若松孝二の脳みその爆発がそのままぶちまかれたような画面に
思わず、お腹の力が抜けていくようで
でも、自由だ、自由なんだ、文法なんてないんだ!と吠えていた
若松孝二がそこにいた。どっぷりと再会できた60分。
そして、上映後には、
若松作品「エンドレスワルツ」で阿部薫役を演じた町田康氏と
若松孝二とは長年の「不良」仲間だという山本政志監督が登壇。
開口一番、山本監督が切り出す。
「俺、前にもこの作品観てて、結構好きだったと思ってたけど
今観ると、メチャクチャだね、これ。性欲のカタマリかって(笑)。
さらには、なんで婦人警官だけ、あれだけ長々と監禁するのかってさ」
思わず、会場から笑いが漏れ出す。
そうだ、みんなして、監督の悪ふざけを息をつめて60分も凝視してたのだから。
すかさず、町田康さんが応じた。
「これ、永山則夫とか、社会に対する破壊的な衝動とか
そういうものだと考えると、これ訳分からんよね。
そうじゃなくて、これは神話なんだと。
現実の社会のリアルの中で考えると訳分からない作品だけど、
神々の事だから。
神話をリアルにやろうとすると、ああいう生々しさになると思う。
性と暴力と。
普通の常識から観ると「女をモノ扱いして…」となるけど
多分、見方が全然違うんだろうと思うんですけど。
実際の若松さんの意図はどうかわからないけど」
山本「無機質に斬り込みたかったんだろうね」
町田「僕は、やっぱり神話だな、と思った。
最後に処罰されるじゃない。もっと強大な神に。
しかし、これ、実際に十三人もやられてました?」
山本「やられてないだろ。語感がいいからでしょ。
九人連続暴行魔じゃ中途半端だしさ。六人もちょっとね、やっぱ十三でしょ」
町田「JAGATARAの『岬でまつわ』って歌も実際に岬って喫茶店があって
「岬でまってるわ」って言ったら、そのままタイトルになったって。
でも、タイトルってそんなもんでしょう」
作品について、ひとしきり語った後、若松監督という人について。
町田「普通、監督って、自分の演出に酔っているというか
情熱をもって、いいものを納得いくまでやりたい!というのがあるけど
若松さんは、とにかく、「今日もまいて終わった」「今日も早く終わった」って
早く終わらせる事に命かけてるっていうか。
そんなに早く終わらせたいんかい!って(笑)
合理的というか、何か、よく考えがつかめないっていうか。
演出も、ちゃんとみてんのかみてないのか分かんないし(笑)」
山本「よく車買い換えてたしねえ。
何が一番儲かった?って聞いたら、「『愛のコリーダ』(プロデュース作品)と
軽井沢の土地転がし!」って言ってましたからね(笑)。
僕は大学受験で上京して面接の時に「好きな監督は?」って聞かれて
「若松孝二と小川伸介です」って答えたら落とされた。
「山田洋次です」とでも言えば良かったと思ってさ(笑)。
でも、高校時代はまだ作品を観たことはなかったんだけど、
生き方に、うわー、と思ってて。やってる事メチャクチャだしさ。
それで、上京してから特集上映で、「犯された白衣」や「ゆけゆけ二度目の処女」とか
一気に作品を観たんだよね。言葉がちょっとインテリっぽいなと思ったけど
でもそれも面白くて、毒性がすごくあって、キバを剥いていて。
大きな流れの中で一人だけ、ぐっと流れをかきわけて上がっていく感じで。
しばらくしてから、実際に会ったら、これがヘンなおじさんだから
ますます好きになって。若松さんって、俺の中で、特殊な人間なんだよね。
尊敬でもない、何だろう、心の中に若松孝二がいるんだよ」
町田「一度、紀伊國屋ホールで「新宿のイベントやるぞ」って言って
よばれた事があるんですけども。かつての新宿が面白かったっていって
唐さんとか原田芳雄さんとか出ていて、僕もなぜか詩の朗読をして
楽屋ではみんな、待ちの間からガンガンに飲んでて、
結局あれは何のイベントだったんだろうっていう(笑)
映画監督って高学歴の人が多くて、大抵、マルクス主義とかってなるけど
若松さんだけ、毛色が違ってましたよね。
暴力革命、それだけ知ってりゃいいっていう」
山本「思想関係ない。心情的なものなんだわ」
町田「連合赤軍もそうですね。思想じゃなくて心情」
山本「虐げられてるところへのまなざしははっきりしてるっていう。
若松さんは、自分の中でほんとに特別な存在。
まさしくインディーズで、ケンカ売りながら生きていた。
若松さんに会えたのは幸せな時間だったし、自分の中には
まだ若松さんがいるし。それで、「政志、何してるんだ!」って
言われるんだろうな、でも言われたら「うるせえ」って思うだろうな、
でも、それを励みにするだろうな、と」
会場からいくつかの質問が出た。
ー若松孝二とのなれそめは?
町田「山本監督の「熊楠KUMAGUSU」の現場で会った。
若松監督たち全員が映画監督という宴会シーンの撮影で。
その時、僕が礼儀正しくて、ちゃんと挨拶して
飲み物を運んだりしたんで、「あ、コイツはいいな」と思ったって。
(それで、エンドレスワルツ出演につながる)
挨拶はした方がいいんだな、という事で(笑)」
ー「連合赤軍」「三島由紀夫」政治的な題材が気になって観ていた。
最近のこうした題材とかつてのピンクにこめられたものとの共通点は。
町田「若松さんは政治的題材を扱っているけれども
現実の政治というモノと政治的なモノは、違うんだろう、と。
若松さんは、現実の政治、主義を描くのではなく
詩的でロマンチック。人間が持っている根本のところで腑に落ちる。
やっぱり、神話のようなものを描いてると思う」
山本「『キャタピラー』は反戦映画って言ってたけど
あれ、ウソだからね。やってることは同じだよ。
時々ウソもつくから、若松さんは。
そこがチャーミングなところなんだけど」
町田「捕捉すると、ウソはいけないか、と。
本にはオビってあるでしょ。あそこには、売るために
ちょっと違うかなーって事を書いたりもする。
宣伝のためであって、中身は別にちゃんと存在してるわけで。
僕は、言ってる事がウソだとか、矛盾があるとか
そういう事が良くないって言うのは、そんな事ないよ
そんなもんだよ、というのがあるんですね」
山本監督プロデュースの実践映画塾「シネマインパクト」から
生まれた映画作品も、これから続々と公開。
山本監督も自身の監督作品「水の声を聞く」
「ちょっと真面目な映画をちゃんとやろう、と。
9月までには撮影を終えようと思っています」との事。
未完の「熊楠KUMAGUSU」についても
主演の町田康さんと、時折、酒とともに思いを語り継いで
今も懐の中で温め中である。
いつだって、ものづくりをせずにはいられない人
思いにつきうごかされて表現へとひた走る人たちの言葉は
現在進行形だから、ヒリヒリじりじりと響いてくる。
若松孝二の形はいなくても、
「自由なんだよ!決まったやり方なんてないんだよ!
想像だけは、最後で最高の自由なんだよ!」と吠え続けた
若松孝二が、そこかしこに充ち満ちていた。
空気が入った夜だった。
会場に来て下さったたくさんのお客さま
ありがとうございました!
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