2011年2月13日日曜日

海の家に響く怒号

撮影2日目。吹雪いたかと思うと、薄日がさし、また粉雪が舞う。変わりやすい冬空の下で、男が列車に乗り込むシーンの撮影。車内は監督と地曵さん、撮影部2名だけの、ゲリラ撮影。線路の向こうには、強風にうねる日本海が深緑色の波しぶきあげている。監督、キャメラの辻さんに、実景撮りの指示も出す。恐らく、監督の頭の中には、近くクランクイン予定の「三島」があるのだ。
 


その後、バスで北上し、海の家で、男が出所後初めて食事をとるシーンの撮影。到着してわずか数分で準備が整い、あっという間にキャメラが回り始めた。
閑散とした冬の海。どんよりとした灰色の空を見つめながら、湯気の立つお椀をすすり、ご飯を頬張る男。しばらくすると勢いよい咀嚼が止まる。久しぶりのボリュームある食事に、刑務所の食事に馴染んだ胃が過剰反応を起こす…。
その瞬間、監督の怒号が響いた。そんな時、どう感じるんだ、もっと戸惑うだろう、もっとうろたえるだろう、もっと、もっと!!
監督のイメージが、ぐいぐいと役者を追い詰め、表情がますます研ぎ澄まされていく。
あっという間に3カット終了。
昼食を挟んで、男が嘔吐するシーンと海岸を歩くシーンの撮影で、今回の予定は全て終了した。

監督は、あまりこまごまとしたディテールにこだわらない。ただ、そこの芯にあるもの、その瞬間の人間の生の迸りのようなもの、その一点に集中して、そこだけは妥協しない。理屈ではなく、嗅覚のようなものだ。
男の目が見据える先に、その視線の先に、監督はどんな世界を紡ぎ出すのか、これからのロケに静かな興奮を覚えるクランクイン2日目となった。

若松組、始動!

2月9日朝、代々木駅前を出発したロケバスの車内で、若松組クランクイン恒例となった、赤飯のおにぎりが配られた。バスは一路、冬の新潟へ。車内には、程よい緊張がみなぎっていた。
そして、時折粉雪の舞う北国の刑務所前で、ファーストカットの撮影が始まった。灰色のコンクリートの横を歩く、一人の男性の姿。五年の刑期を終えて出所してきたばかりだ。
 


男を演じるのは、「実録・連合赤軍」で森恒夫氏を演じた、地曵豪さん。
船戸与一原作の「ホテル海燕ブルー」が、若松孝二によって、新たに生まれ変わっていく。

その日予定していた撮影は、あっという間に終了。監督の早撮りは健在だ。目の前の役者と風景を、次々にキャメラで切り取っていく。
それにしても、北国の凍てついた風景と監督は、よく似合う。人の心の乾きや熱さを、その風景の中で、巧みに映像にしていく。
四年前の、連合赤軍のロケを思い出した。

2011年2月9日水曜日

早稲田松竹で二本立て、スタート!

 

2月5日(土)、早稲田松竹で「実録・連合赤軍」と「キャタピラー」の二本立て上映がスタートしました。2作品で4時間半以上もの長丁場ですが、場内は満席、上映終了後の興奮冷めやらぬまま、若松監督のトークイベントが始まりました。
 まず監督は、自身のパレスチナのシャテーラキャンプの大虐殺の経験を語り、「常に女性や子どもの弱者が犠牲になるのが戦争だ」と「正義の戦争も国家のための戦争も、まやかしだ」と話しました。「沖縄の米軍基地問題も、小学生の女の子が3人の米兵にレイプされる事件がきっかけになって、基地問題が大きく取り上げられるようになった。だけど、米軍の一兵士が悪いという問題じゃない。戦争というのは、戦場というのは、それだけ、人間性を破壊するものだということ。日本の特攻隊の若者たちだって、1銭5厘のハガキで召集され、クスリ入りチョコレートを食べさせられて突撃させられた。そういう戦争の実態がある」という監督の話しを受けて、次々と「キャタピラー」や「実録・連合赤軍」の作品について、質問の手が挙がりました。
「寺島さんが、勲章や額縁を倒したシーンで、なぜ、天皇の写真は倒さなかったのか?本当は一番倒したかったのでは?(キャタピラー)」
「高校生です。映画の中で花を食べちゃう人がいましたが、戦時中であれば、ああいう人は村の中でひどいイジメに遭ってしまうのでは(キャタピラー)」
「自分は早稲田の大学生だが、当時、火炎瓶投げて、授業料値上げ反対を叫んでいた人たちが、今や教授になって、僕たちから高い授業料を取って、いい生活をしている。定年になれば、僕らの働いたお金から高い年金をもらうんだろうと思うと、あまりに無責任じゃないかと思うのですが(連合赤軍)」等…。
 実にストレートな質問が続きました。
 天皇の写真については「僕は何も言ったわけではないが、寺島さんは、やっぱり、そこは考えて演じてくれたんじゃないか。もし、天皇の写真までやってたら、それこそ、右翼が黙ってなくて、大変だったんじゃないかな。僕も、そこまで度胸ないですし(笑)、これが上映できなかったら、それこそ無一文ですから…」と答え、場内の笑いを誘いました。
 花を食べていた人物については「昔、戦争に連れて行かれないためには、バカのフリをするか、醤油を飲んで肺病のフリをするかだったんです。あれが、本当の反戦ですよ。なにも、暴力やデモだけが抵抗の方法じゃない。ああいう抵抗の仕方だってあるんです。一人一人が、そういう抵抗の方法を考えればいいと僕は思うんです。思考停止に陥らないことですよ。若い人は、世間にかき回されない方がいいよ」
 早稲田の学生からの団塊の世代の教授批判については「先生に、食ってかかったらどうですか。そりゃ、ずるいよ、みんなを煽動し、運動に走らせて、終わったら、さっさと戻ってのうのうとやっている。それこそ、今の学生たちが、糾弾すればいいんじゃないかと思う」と語り、連合赤軍のあまりにむごたらしい総括についての質問に対して「組織を作ると、必ずそうなるんです。権力が生まれると、邪魔な奴は消していこうとするんです。日本でも、相撲協会でも、会社組織でも、世界でも、同じでしょう。うるさい奴は北海道へ飛ばしてしまえ、というのも同じ。人間の欲、権力の欲。ご飯を食べられて楽しく生きられりゃ、それでいいのに、どうしてか、人間の心はそうなってしまう」と、権力と組織の普遍的な形として、総括を語りました。
「実録・連合赤軍」と「キャタピラー」、2つの作品が交錯し、組織と個人、男と女、暴力とエロス、濃密な若松ワールドが展開している早稲田松竹、上映は今週いっぱいです。劇場へぜひ、足をお運び下さい!

2010年12月3日金曜日

SARVH賞&アジア太平洋映画賞


12月3日、東京會館にて新藤兼人賞・SARVH賞2010の受賞式がおこなわれ、最優秀プロデューサー賞である「SARVH賞」を若松監督が受賞しました。
作りたい映画を自力で作り上げ、自力で公開してゆく独立系のプロデューサーの原点に根ざしている点、また監督をしながらも長年に渡り最もインディペンデントな形での映画作りをしている若松監督のプロデューサーとしての姿勢が今回の受賞につながりました。
若松監督は「なんで監督賞でないのかな」と照れながらも、「これからも自分の好きな、思い通りの映画を撮っていきたい。私は74歳だが、なるだけ新藤監督に近づこうと思っている。尊敬する新藤監督とこのような形でお会いする事が出来て、本当にうれしい。これからも自分の映画を撮れるように頑張ります」と、挨拶をされました。
新藤監督は98歳ですが、新作が出来たばかりです。新藤監督の年齢を感じさせない、そして志を持って映画を作り続ける姿勢には、本当に圧倒されます。若松監督も元気でお茶目な新藤監督とお話をされて、とてもうれしそうでした。
この後、若松監督は函館イルミナシオン映画祭に出席する為に、函館に飛び立ちました。
 




そして海外からもうれしいお知らせが飛び込んできました。オーストラリアで開催された『第4回アジア太平洋映画賞』で寺島しのぶさんが審査員特別賞を受賞し、2日に豪ブリスベンのマリオットホテルで行われた授賞式に出席されました。「今回審査員の方々の目に留まって、審査員特別賞を頂けるということは、本当に女優として光栄なことだと思っております。ベルリンでは味わえなかった授賞式というものを存分に楽しんで、また次の作品に繋げていきたいと思っています」と、寺島さんは喜びの挨拶をされました。寺島さんは受賞が急遽決まり、前日にオーストラリアに飛び立たれたそうです。

そしてシネマテークでの旧作40本上映に沸くパリでは、12/1(水)にパリの映画館で「キャタピラー」が封切されました。色々な雑誌、新聞でとりあげられ、批評や反応もとても良いとの事です。寺島さんの受賞、そしてパリでの封切と、今週はうれしいお知らせがたくさんありました。

2010年11月28日日曜日

怒涛の授賞式!パリでは旧作特集開幕!

26日(金)、ヤクルトホールにて第34回山路ふみ子映画賞の受賞式がありました。
http://www18.ocn.ne.jp/~yamaji/
今回山路ふみ子女優賞を寺島しのぶさんが受賞しました!日本で一番早くに発表される映画賞で、「キャタピラー」での迫真的な名演技に対してとの受賞という事で、とてもうれしい受賞になりました。

しかし26日は寺島さんが舞台に出演中で会場にこれず、ピンチヒッターとして若松監督が登壇されました。「寺島さんの代わりに、こんなブサイクでごめんなさい」と監督が言うと会場は笑いに包まれていました。2月のベルリン国際映画祭銀熊賞の授賞式でも寺島さんの代理で授賞式に出席したエピソードを話され、「今日はその時と同じ格好で来ました。本当にありがとうございました」と、今回の受賞への感謝を述べられました。
 

 

 

そして翌27日(土)、TAMA映画賞受賞式が行われました。
http://www.tamaeiga.org/
最優秀新進監督賞を大西信満さんが受賞しました。そして「まっすぐなインディペンデント魂に対して」という事で、特別賞を若松監督が受賞されました。


 「ほぼ寝ているだけの役で、このような賞を頂き、とてもうれしく思っています。たぶん今日の方が映画の中よりしゃべっているはずです」と大西さんが照れていました。若松監督は「ベルリン映画祭に参加して感じたのは、ドイツでは戦争についても小学校から教えている。日本ではそういう教育がないからこそ、キャタピラーをもっと若い人たちに観てほしい」と話されました。最後に監督と、大西さんのふたりで、撮影中の思い出などを話され、とても盛り上がっていました。
授賞式には世界のアイドル・キティちゃんも駆けつけ、記念撮影が行われました。
山路ふみ子映画賞の皆様、TAMA映画祭の皆様、そして観客の皆様、本当にありがとうございました。

 先日の「キャタピラー」のオープニング上映に引き続き、パリのシネマテークフランセーズで若松監督の旧作上映が始まりました。スタート作品は「逆情」(64‘)でした。パリではあまり知られていない作品で、夕方17時からの上映にも関わらずアンリ・ラングロワ劇場には150人近いお客様が駆けつけて下さいました。次回は「情事の履歴書」、「鉛の墓標」、「歪んだ関係」が上映されます。
パリでの上映情報は、高橋昌子さん、そして映画研究者の平沢剛さんに御協力して頂いています、ありがとうございます。

2010年11月25日木曜日

パリシネマテーク「キャタピラー」上映


 
パリのシネマテーク・フランセーズで若松監督特集が始まりました。24日、オープニング記念上映として「キャタピラー」が上映されました。
若松監督は今回は欠席なので、シネマテークのプログラム部の代表ロジェ氏と配給会社としてビックワンさんが登壇し、挨拶をされました。
その後若松監督のビデオレターが流れ、「キャタピラー」の上映が行われました。
いつものように上映後は重い空気に包まれていましたが、ほぼ満員の会場で皆さん真剣にご覧になっていました。

パリの方々は監督がいらっしゃれず残念とおっしゃっていましたが、とてもいい雰囲気のオープニング上映となりました。
明日から、毎日数本ずつ旧作がシネマテーク・フランセーズで上映されます。
今回のブログは高橋昌子さんに御協力して頂きました、ありがとうございました。

2010年11月22日月曜日

TAMA映画祭&ストックホルム映画祭&ペサック歴史映画祭

 


 

11/20(土)、TAMA CINEMA FORUM第20回映画祭にて「キャタピラー」が公開されました。当日券も完売してしまい、入場できないお客様もいらっしゃいました、申し訳ありません。
上映後、若松監督、寺島しのぶさんによる舞台挨拶がありました。大きな拍手に迎えられ、映画撮影中の話や、各地の舞台挨拶での様子などを話されました。また監督が「さっきから子供の声がするでしょう」と、出征行列のシーンにでていた赤ちゃんを紹介しました。この日はたまたま赤ちゃんとお母さんが観にきており、観客席からのサプライズゲストとなりました。撮影時はまだ歩けなかった赤ちゃんも、もうすっかり「監督さーん!」と言いながら走りまわるくらい大きく、お姉さんになりました。
「こんな小さくてかわいい子供も犠牲になった戦争は繰り返してはいけない。それが皆さんに伝わればうれしいです」と監督が言うと、再び大きな拍手が沸き起こりました。

TAMA CINEMA FORUM第20回映画祭最優秀女優賞を寺島さんが受賞されました。現在舞台に出演中の寺島さんには、来週の受賞式にいらっしゃれないので、受賞式が一足早く行われました。観客の皆さまの拍手に包まれ、とても素敵な受賞式になりました。
TAMA CINEMA FORUM第20回映画祭の皆さま、観客の皆さま、本当にありがとうございました。
寺島さん出演の舞台「やけたトタン屋根の上の猫」HPはこちらになります。→http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000323_play.html
そしてその頃、大西信満さんはストックホルム国際映画祭にゲストとして参加していました。
http://www.stockholmfilmfestival.se/album/?album[name]=101118_f2f&album[event]=festival2010

極寒のストックホルムで、大西さんは一人「キャタピラー」の上映に参加し、そして多くの取材を受けられていました。Q&Aの様子などがアップされていますので、是非上記HPを御覧になられて下さい(英語ですが…)。
昨日21日にはフランスのペサック国際歴史映画祭で「キャタピラー」がコンペ部門として上映され、最優秀賞を受賞しました!ペサック国際歴史映画祭は歴史をテーマにしたフィクション・ドキュメンタリーを専門にした映画祭で、映画ファン・歴史研究の世界では人気な映画祭だそうです。
http://www.cinema-histoire-pessac.com/
結果発表の際には以下のコメントが読み上げられたそうです。
『審査員満場一致で若松孝二監督の「キャタピラー」が審査員賞(最優秀賞の事)に選ばれました。戦争の恐ろしさと言う世界共通のテーマを扱ったこの映画は素晴らしい完成度で、見事に演じられ、類を見ない勇気が感じられます。男性優位と国家主義と言う日本社会に見られる2つの柱を再検討しています。現代の響きを持ったこの歴史映画は、日本が過去を直視する事が出来ないという現実をうち砕いてくれました。』
フランスのシネマテークでは今週から、若松孝二特集として「キャタピラー」を含む40作品が上映されます。
12月1日からは「キャタピラー」のパリでの一般公開も始まります。
http://www.lesoldatdieu.com/
まだまだ日本、そして世界で「キャタピラー」旋風は終わりそうにありません!