若松監督は、50年以上監督をやっているが
今でも公開前夜は眠れないという。
ガラガラだったらどうしよう。
お客さんは、作品を楽しんでくれるだろうか。
いろいろな思いが頭をよぎる。
そして、先週の土曜日、テアトル新宿と横浜ジャック&ベティにて
ついに「海燕ホテル・ブルー」が封切りされた。
若松監督と出演者(片山瞳、地曵豪、大西信満)が、それぞれの劇場で
2回ずつ舞台挨拶を行った。
広告宣伝の予算もなく、上映情報の告知も十分できずに迎えた初日。
大入り満員!とはいかなかった。
しかし、上映後、おそるおそる(?)お客様の前に並んだ
若松監督及びキャストの目に飛び込んできたのは
お客様たちの嬉しそうにきらきら光る瞳だった。
一緒に、この84分の若松ワールドを愉しんでくれた。
その手応えを感じる場内の空気だった。
「船っちゃん(原作者の船戸与一氏)が病気で長くない、なんて言うから、
前から約束していたこの原作の映画化、とにかく急ごうってんで
三島撮ってすぐにまたインしたんです。
煮るなり焼くなり、好きにしていいって言ってくれたから。
でも、そしたら船っちゃん、全然元気で、今も治療してますけど
まだまだずっと元気でいてくれそうなんで、
こんなに焦ることなかったかな、と思って」
と、照れくさそうに冗談半分に監督が挨拶を始めた。
目の前に見えてる風景が、実は人によっては全然違う風に見えてるんじゃないか。
話してる相手が、現実の世界の人間じゃないかもしれない。
幻想と現実の境目なんて、誰がわかるんだ。
そんな監督の妄想が入り混じって、撮影現場も変更に告ぐ変更で
まるで予測不可能だったことなどを、キャストたちがエピソードと共に披露した。
原作にはない、謎の警官を演じた大西信満。
若松監督からどのような演出が、とのお客様からの問いに対し、
「何の説明もありません。本にもない存在でしたし。
ただ、唯一監督がクランクイン前に自分に言ったのは
『お前はアメリカだ!』と。
それだけでした」と話すと、監督は
「だってね、ほら、アメリカは、すぐ攻撃するでしょ。
自分が創り出したフセイン政権も、イチャモンつけて先制攻撃」
大西扮する謎の警官の暴走ぶりは、作品を観てのお楽しみに。
そして、連合赤軍で森恒夫を演じて以来若松作品への出演の続く地曵豪は、
「連合赤軍、キャタピラー、三島と骨太な昭和三部作に関わらせて頂いて
それと比較すると、一見、海燕は全然違う作品のように思われるかもしれないが
実は、この社会の閉塞感に対する監督の憤り、という意味では
前の3作品と全く同じ。監督は1つもブレずに表現しているのだと
強く感じている」と語った。
若松組初参加の片山瞳は
「俳優部の強い支えがあったから、単身での参加に不安はあったが
若松組の即興的な現場を、緊張しつつ怯えつつも、楽しむことができた」
と、現場での衝撃を語った。
お客様からは
「若松作品は、とにかく俳優がいい。
今回の作品も、出演者たちの存在感が素晴らしかった」との言葉も。
(今回も、挨拶の際に公式ブックの宣伝をする若松監督。〝今回はジム・オルークのサントラも付いていて1200円!僕と船っちゃんの対談も出ているし、俳優さんたちの座談会もあるしいろんな人がいい文章書いてくれてるし、本棚に置いておきたくなる1冊ですからぜひ、買ってください〟と熱弁ふるう)
そして上映後のロビーには、ジム・オルークサントラ付きガイドブックを
お求めくださる方たちの長い列が。
実に、映画を見てくださったお客様の半数以上がお買い求めくださる。
そして、興奮冷めやらぬ様子で、いろいろな方が声をかけてくださった。
「あの女性の描き方、すごくいいですね!
ラストの女性の消え方、自分が思い描いた世界そのものだったから!」
「男たちは、破滅していくから、愛おしい。
監督のその愛情を感じた。
あの男たちは、破滅していくからいいんだわ!」
見た方、一人ひとりが、それぞれの世界観で
作品と自由に向き合い、たっぷり堪能してくださった様子が
言葉や表情の端々から伝わってくる。
映画は贅沢なオモチャだ。
嬉しい手応えを感じる初日となった。
「映画はね、暗闇で一人で見るものでしょ。
学校では絶対教えてくれないような事がいっぱいあるんだよ。
暗闇で映画と一人で向き合う時間、若い人にもたくさんたくさん経験して欲しい」
と常に語る若松監督。
だから「海燕ホテル・ブルー」も、大学生は1000円、高校生以下は500円。
テアトル新宿、横浜ジャック&ベティに続いて、全国各地で順次公開します。
ぜひ、劇場に足をお運びください。
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