2012年2月13日月曜日

テアトル新宿の熱い夜

「プリントのつなぎ間違いじゃないですから・・
 怒らないで最後まで観てください」
若松監督の謙虚で不思議な舞台挨拶に場内から笑いが漏れた。
空気を静かに震わすジム・オルークの独特な音楽で
幕を開けた「海燕ホテル・ブルー」の先行上映会。

2月9日(木)、平日の夜だというのに
テアトル新宿は「海燕ホテル・ブルー」を一足先に観ようという
お客様の静かな熱気に包まれていた。
ジムのライブ終了後、監督及びキャストによる舞台挨拶が行われた。
壇上に並んだのは、若松組初参加となった女優・片山瞳と
連合赤軍からの常連陣・地曵豪、井浦新、大西信満。
そして観客として観に来ていたキャストの一人、ウダタカキも急遽壇上へ。

各自、来場してくださったお客様に感謝の気持ちを表しつつも、
上映前ということもあり、詳細を語れないというもどかしさを抱えての
降壇となったようだ。
そのため、作品を観終わったお客様ともう一度向き合いたい!という声が出て
予定外ではあったが、急遽上映後にティーチインを行うことに。
上映終了が23時過ぎていたため、終電の関係で何人かのお客様は劇場を後にしたが
予想を超えて大方のお客様がティーチインにも残ってくださった。

今度は壇上ではなく、舞台の下、お客様の目の前に
再び並んだ監督とキャストたち。
場内の皆さまに「何かご質問がありましたら」と呼びかけたが
なかなか挙手がない。
一体、この作品を自分の中でどう消化すれば・・・?というような困惑顔と
そして、若松監督が遊び尽くした作品を、ともに遊んだ後のような笑い顔。
「いや〜、ヘンなの撮っちゃった!」
クランクアップ後に、ニコニコ笑いながら監督が口にした通りである。
「月並みですが、撮影中に苦労された点は?」とのお客様からの質問に
待ってましたとばかり、各俳優陣がそれぞれの苦労話を披露。
クランクインした当初、まだ台本すら存在していなかったこと。
日々、あらゆる事が変化していたこと。
「脱ぐ」なんて台本には一言も書かれていなかった自分が、
いきなり全裸で走れと言われたこと。
原作をしっかり読んでいたら、自分の役は原作のどこにもない謎の警官だったこと。
あらゆる常識を飛び越えていくのが映画づくりではあるが
ここまで何もかも飛び越えてもいいものだろうか・・・と思ったこと。
そう語るキャストたちの楽しそうなこと。
そうだ、この作品は、みんなで必死になって遊んだ作品だ。
遊び半分に作った映画ではない。
必死に遊んだ映画なのだ。
「映画なんて所詮オモチャ」というのが若松監督の口癖だ。
理屈なんかすっ飛ばして、自分の五感をフル回転させて
いろんな妄想を膨らませて、その手触りを実際の映像に表現していく。
ただ、それだけのこと。
だからこそ、みんな四苦八苦して、監督の妄想にくっついていく。
監督の頭の中の手触りを知ろうと奔走する。
そうして出来上がった作品だ。
そうしなければ作れなかった作品だ。
そして、そんな風にキャストやスタッフを巻き込んで
音楽のジム・オルーク氏や原作者の船戸氏をも巻き込んで、
この作品は完成したのだ。
映画とは、なんと贅沢で最高のオモチャだろう、と思う。

ティーチイン終了後、劇場のロビーは
公式ブックをお求めくださるお客様であっという間に長蛇の列が。


作品の手触りを、もう一度本で味わってみようか、と思ってくださった方、
この公式ブック限定のジム・オルークのサントラCDがお目当ての方、
不思議な作品の目撃者となった記念に買ってくださった方。
それぞれの皆さまに、心からの感謝を・・・。
そして劇場にお越し下さった皆さま、本当にありがとうございました。
今回を逃した方、ぜひ、3月24日から、テアトル新宿、横浜ジャック&ベティ
その他、全国各地の上映劇場に足をお運びくださいませ!

2012年2月2日木曜日

東紀州FCの方たちと再会!

つい先日、シネマサウンドワークスにて
「千年の愉楽」のダビングが終わった。
ロケの舞台となった三重県尾鷲市須賀利は
昭和と変わらぬ佇まいの、静かな集落だ。
この地が積み重ねてきた年月の色合いによって
作品に深みとリアリティが増している。
改めて、ニセモノではない風景の美しさを実感した。
監督が惚れ込んで今回参加して頂いた
奄美民謡の歌い手、中村瑞希さんの唄声とサンシンの音色が
さらなる奥行きを生み出す。
スタジオの大きなスクリーンの映し出された
オリュウが、三好が、半蔵が、達男が、そして彦之助や礼如たちが
なんと人間臭く、愛おしく、息づいていることか……
と、ダビングしながら、何度も言葉を失う。
三重県尾鷲市の須賀利でのロケを
全面的に協力して下さったのが、
東紀州フィルムコミッションの方々。
昨日、都内で行われた三重県の観光イベント会場で
この東紀州のFCの方達との嬉しい再会が待っていた。

一人一人の顔を見ると、夢のように過ぎ去ったロケでの日々が
鮮やかに脳裡に蘇ってくる。
スタッフもキャストも無我夢中で走り続けた日々を
常に横にいて支え、共にはしり続けてくれた、いわば同志。
本当に、心から感謝。
秋頃の全国公開を予定しているが、
三重県でも色々な形で上映が実現するよう、
共に模索していけたら、と思っている。
さて、2月9日の海燕先行上映会もいよいよカウントダウン!
3月24日からの公開も、前売りチケットの販売が始まっている。
若松孝二、75歳。
その頭脳と情熱から生み出された、新たな荒野の密室劇。
どうぞ、劇場で目撃してください。
お待ちしております。

2011年12月8日木曜日

音楽打ち合わせin奄美

先日、函館映画祭に出席した監督が
今週は、一路、奄美へ。
北へ南へと、文字通り奔走している。
今回の奄美訪問の目的は、編集を終えたばかりの
「千年の愉楽」の音楽の打ち合わせだ。
今回、クランクイン前から、監督が連日聴いていたのは
中村瑞希さんが唄う奄美の民謡だった。
空気を静かに震わすサンシンの音と歌声。
キャメラがパンするときも
「辻さん、この歌のリズムでパンして」
中本の血が流れていく時のお芝居も
「この歌が流れていく感じで」…。
撮影中の監督は、
いつもポケットに、この音楽を入れていた。
サンシンの音色と唄声が路地の空へと流れていく。
それは、オリュウの静かに燃えたぎる情熱であり
出口を求めて彷徨っていた三好の咆哮であり
己から逃れようともがく半蔵の血の滾りであった。
先月末、ジェイフィルムにて編集しながら、
この映画の全編を、言葉にならぬ静かな思い
サンシンが震わすような空気の波が包み込んでいると感じた。
今回、この中村瑞希さんと「千年の愉楽」の音楽の
打ち合わせをするために、奄美に行った監督。
同行したのは、音楽プロデューサーの高護氏。
現地に着いた監督を待ち受けていたのは…。
なんと、中村瑞希さんとミュージシャンのハシケンさんによって
オリュウオバのテーマソングとも言うべき1曲がすでに出来上がっていた。
路地から飛び立って行く1つ1つの魂への
オリュウの叫びが、1つの曲となっていた。

2011年12月5日月曜日

「鉛の時代 映画のテロリズム」 『天使の恍惚』上映 若松監督舞台挨拶

東京日仏会館にて開催されている特集上映「鉛の時代 映画のテロリズム」におきまして、若松孝二監督の「天使の恍惚」が上映されました。
若松監督と「リベラシオン」の映画記者フィリップ・アズーリさんのトークショーが行われました。
「天使の恍惚」が公開された1972年の時代背景や、公開後一日で上映中止になった事件など監督しか知ることのできない裏話が次々と語られました。
特集上映「鉛の時代 映画のテロリズム」は12月18日まで東京日仏会館にて上映しております。
また若松監督作品は
『天使の恍惚』 12月09日 (金) 14時30分
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』 12月17日 (土) 18時00分
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』 12月18日 (日) 11時00分
以上の日程で上映予定です。どの回も一般1000円でご覧いただけます。

2011年11月26日土曜日

「11・25自決の日」完成披露上映会、大盛況!

昨夜、「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」が
世の中に向かっての第一歩を歩み出した。
立ち見席も完売、それでも当日チケットを求めて
足を運んで下さる方が後を絶たない状況で幕を開けた特別上映会。
会場全体を包む不思議な熱気は、
2008年の「実録・連合赤軍」公開当時を思い出させた。
同時代の、しかし全く真逆の思想を抱いた若者たち。
この非常にシビアで重たい2つのテーマに
敢えて挑んだ若松孝二。

 

 
上映に先立って、若松監督と三島由紀夫役の井浦新(ARATA)、
森田必勝役の満島真之介、古賀浩靖役の岩間天嗣が舞台挨拶を行った。
「11月25日、今日は三島さんたちの命日です」と語り始めた監督、
「ステージの上からの挨拶はおこがましいので、舞台下からご挨拶します」と
集まった観客に謝意を述べた。
続いて、井浦が「この三島さんの命日に、この作品が飛び立っていけることを
本当に嬉しく思っています」と語り、観客に向かって頭を下げた。
満島は緊張のあまり、言葉に何度も詰まりつつ、
自分の思いを言葉にしようと懸命になっていた。
岩間も率直に挨拶の言葉を述べ、出演者が三者三様の挨拶を終えて
本編上映が始まった。

上映終了後、間もなく、ドキュメンタリー監督の森達也氏と
一水会顧問の鈴木邦男氏によるトークショーが始まった。
三島氏らの決起当時、まだ16歳だったという森氏と
森田必勝氏の大学での民族派運動の先輩であったという鈴木氏。
スタンスも思い入れも異なる二人によるトークとなった。
三島氏が、当時の時代状況に影響を受けながら、
楯の会での行動を先鋭化させていく様を
1つ1つ検証しながら語る鈴木氏。
記録映像の使い方について語る森氏。

トーク後半には若松監督も飛び入りで壇上に上がり、
映画ラストシーンに込めた思い、さらには
つい先日クランクアップした「千年の愉楽」について語った。
最後には、客席にいた出演者の篠原勝之(陸上自衛隊富士学校長役)や
「千年の愉楽」に出演した佐野史郎を監督が壇上に呼び上げ、
トークを賑やかにしめくくった。
「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」が
本当の意味で完成した、記念すべき第一日となった。
この先も、続いて制作した「海燕ホテル・ブルー」の公開前イベントや
「千年の愉楽」の編集、音楽作りなど、3つの作品に関する動きが加速する。
年の瀬を前に、エンジン全開の若松監督である。

この先のイベントや作品制作進捗状況など
出来る限り細かくブログにて告知、レポートしていきます。
どうぞよろしくお願い致します。
なお、昨日、足をお運びくださりながらご入場頂けなかった方たち、
申し訳ありませんでした。
来年の公開をどうぞお待ちください。

2011年11月17日木曜日

夢か幻か…怒涛のロケ終了!

終わった。
気付いたら、全てが終わっていた。
普段は静かな須賀利の集落が
熱気に包まれざわめいていた日々。
東京でのクランクインから始まった怒涛の撮影の日々は終わりを告げた。
中本の血の滾りを見せていた男たちの
狂おしいほどの眼差しは、もうどこにもない。
男たちの生き死にを見つめるオリュウの
時空を越えた眼差しも、もはや、どこかへ消えてしまった。
クランクアップ後、静まりかえった集落を見渡して思った。
あれは、夢か幻だったのか…と。

いや、それらは全て、キャメラにしっかりと焼き付けられた。
これから編集され、音付けされるのを待ちながら、
いきいきと息づいているのだ。
高岡蒼佑演じる三好。
高良健吾演じる半蔵。
染谷将太演じる達男。
寺島しのぶ演じる産婆のオリュウは、
彼らを親より先にその手に抱き、
路地の者らが背負わされたものを見つめ、
生きよ、生きよと祈り続けてきた。
生きるとは、何と理不尽で美しくて暴力的で
刹那的で永遠に続く営みであることか。
須賀利の集落の、美しくも寂しげな佇まいが
役者たちの創り出す世界観に深みを与える。
紀州の深い緑の山と、広がる入り江に縁取られた小さな集落。
この美しく静かな路地の風景の中で、
新たなる「千年の愉楽」が誕生した。
怒涛の11日間を終え、静けさを取り戻した集落の中で
目の前から、オリュウや半蔵が去ってしまった寂しさと
1つの世界が誕生したのだという実感に包まれていた。

ロケ中、全くブログが更新できず、申し訳ありませんでした。
これまでの若松組と同じく、バタバタの現場でしたが、
多くの方たちのご協力があったからこそ無事に終えることができました。
何より、東紀州フィルムコミッションの皆さま、
尾鷲市の皆さま、紀北町の皆さま、須賀利のおんばんの会の皆さま、
須賀利の皆さまの日々のご協力と暖かいご支援があったからこそ
わずか11日間というスピードで集中して撮影を進めることができました。
毎日の暖かい励ましの声やご支援の数々、
心から感謝申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
映画が完成するまで、これから長い道のりが待っています。
編集、音入れ、音楽作り、ダビング……
映画の心臓とも言うべき大切な作業を経て
1つの作品が生まれます。
どうぞ、楽しみにお待ちください。

2011年11月5日土曜日

クランクイン初日、無事終了

昨日、朝8時に無事ファーストカットの撮影が始まった。
ARATA演じる路地の男が、わが子の出産を目前にして
この世を去る決意を固める。
その目撃者となるのが佐野史郎演じる毛坊主だ。
この作品の重要なエッセンスが濃縮されたシーン。
若松組の常連2人が、渾身の演技を見せて
わずか1時間たらずで終了。
あっという間に次のロケ地へ向かう若松監督。
赤子を産み落とそうといきむ女、
生まれ出ようとする命に、出でよと叫ぶ産婆のオリュウ。
「千年の愉楽」で、路地の男たちの生と死を
常に見守り続けてきたオリュウを演じるのが寺島しのぶ。
寺島演じるオリュウの目がキラキラと輝いて
生まれ来る命を見つめている。
キャメラが回り、もの凄い勢いで撮影が進んでいく。
今回も、若松の早撮りは健在だった。
夕方予定していたシーンの撮影を1時間くりあげて
場所を開けて頂く。
高岡蒼甫演じる青年・三好が、苛立ちを募らせるシーン。
若いエネルギーが出口を求めて彷徨い呻く。
高岡の表情を見つめる監督の口から
満足そうな「オーライ!!」の声が飛び出した。
初日、終了。
これから始まるノンストップの日々に
役者もスタッフも、決意を新たにした瞬間だった。